今やどこの本屋さんでも平積みになっている、英語学習本としては空前のベストセラーとなった
「英単語の語源図鑑」
確かに大ヒットするだけのことはあり、読み物としてはレイアウトも非常にわかりやすくて楽しく、読みやすいです。
ただ、一英語学習者、教材マニアとしては、
これはあくまでも「読み物」であって「教材」ではないな、
というのが率直な印象。
「語源から英単語を覚える」といえば、一昔前に漫画「ドラゴン桜」のモデルとしても有名になった竹岡広信先生の大ヒット本「ドラゴンイングリッシュ」というブームが思い出されますね。
ですが、意外と「語源から英単語覚えよう」メソッドって、結局はあんまり流行らなかったなぁ、という感じがしています。
そこで今回は
- 「英単語の語源図鑑」はどういう内容なのか
- 活用するならどう使うべきか
- ぶっちゃけ買った方がいいのか
- TOEICには役立つのか、といった点を中心にレビューしていきましょう。
「英単語の語源図鑑」の概要
「12の接頭辞+語根」というバリエーション
帯にもある
「100の語源で10000語が身につく」
というキャッチコピーに惹かれますが、当たり前ですが、そう甘くはありませんね(苦笑)。
まず、この「英単語の語源図鑑」の基本的な構造について少し紹介します。
目次をチラッと見ておきましょう。
こんな感じです。
特徴は12のチャプターに分かれていて、その12というのが「ad」「con」「de」といった接頭辞ごとにチャプター分けされているという点です。
そして各チャプターの内容は見開きごとに、1つの語根(administerであればministerの部分)を取り上げています。
ここが結構賛否両論分かれるポイントで、要するに左のページでチャプターのお題である
「接頭辞+語根」
を取り上げていますが、右のページでは「語根」が共通している単語が並んでいるわけですね。
例えば54ページの「conform」のページを見てみると
ここは「con」という「共に」という意味を持った超有名な接頭辞のチャプターの1つなんですが、個々でのテーマは語根の「form(形)」にあります。
そこで右側に並んでいる単語を見ると
- formula
- reform
- inform
- transform
という、一見縁もゆかりもなさげな単語が並んでいるのですが、
ぶっちゃけ、この4つをパッと見て覚えるのはかなり難しい(苦笑)。
というか、覚えにくい。
確かにformという語根の要素では共通していますが、意味のカテゴリーは結構遠いですし、しかもこの4つの単語には「re」「in」「trans」といった別の接頭辞が登場していて、ややこしいですよね。
ということで、この「英単語の語源図鑑」は
接頭辞×語根
の組み合わせをパズルのように自在に付け替えながら意味を理解していこう、ということなんです。
まぁ、単語を効率よく覚えるメソッドの1つとして、その意図はよくわかります。
「英単語の語源図鑑」は単語帳ではない
確かに読み物としては楽しく、私自身も
「ああ、そうだったのか!」
と感心するところも多くあったのですが、
この「英単語の語源図鑑」を「単語集」として活用するとなると疑問符をつけざるを得ないと考えます。
その理由の1つは、単純に「単語集」にはなっていないということ。
単語集は各レベルや対応する試験に合わせて「頻出単語」を品詞や難易度順に、かなり細かく配列を考えて掲載されていますが、この「英単語の語源図鑑」はそういった頻出単語や学習者レベルに合わせた配列にはなっていません。
あくまでも「接頭辞」と「語根」の組み合わせによるバリエーションを紹介する、という「読み物」になっているので、単語集というよりは解説書や補助教材、むしろ軽めの辞書に近い、という印象です。
まぁ、本のタイトルも「図鑑」ですし(笑)。
単語集には向いてない理由の2つ目は、これも「辞書っぽい」という所に通じるところですが、
単純に並んでる単語を見ているだけではすごく覚えにくいです。
例えば「英単語の語源図鑑」100ページの「substance」の項目を参照してみましょう。
ここは「sub+stance(物質)」という単語を取り上げつつ、
右のページは「下で支える」という意味を持つ語根「stance」の代表的な単語が4つ並んでいます。
その並びがこれです。
- distance
- circumstance
- statue
- estate
この4つはそれほど難易度の高い単語ではないとはいえ、この並びではかなり覚えにくい。
しかも、語根は頻繁に変形しますから、このページだけでもすでに「stance」と「state」という2つの語根が混ざってしまっているわけです。
イメージの系統は似ているものの、初見の人がこの4つをセットで覚えるのは無理があります。
逆に、4つの単語を知っている人からすると、
「ああ、なるほど」
と納得するところがあり、知識の再整理ができるという感じです。
ということで、結局
英単語の語源図鑑を教材的に使えるのは、初心者というよりはむしろ中上級者なんじゃないか?
と思うわけです。
「英単語の語源図鑑」の活用方法
「英単語の語源図鑑」の正しい使い方は、
掲載されている単語をほぼすべて覚えている人が、知識整理として活用する
というものだと思います。
この「英単語の語源図鑑」の単語レベルは3000語~5000語レベルです。
なので、高校卒業程度、大学受験センターレベル(センター試験は謎の廃止となりますが)の英単語が身についている人ならば、読み物としても、知識整理としても活用できるでしょう。
あくまで知識整理として活用すべきであって、「語源から英単語を覚えるメソッド」がいうように、それぞれの接頭辞、語根を覚えておいて、その組み合わせによって未知の単語を推測する、といったことにはこだわらない方がいいです。
余計に混乱しますし、そもそも未知の英単語と遭遇した時には長文読解問題以外で悠長に推理している暇はありませんから。
あくまでも、それこそ辞書や参考書を参照するときの感覚で、
parasiteはpara(そばに)とsite(食べ物)で「食べ物のそばにいる」という意味で「寄生虫」なのか~
とか、
liableってli(結ぶ)とableで「結ぶことができる」で「~しがちである」という意味になるのか~
と、納得(?)していく、という読み物にとどめておきましょう。
あの、今の例でもわかると思うのですけど、
そもそも語源が分かったからといって英単語の意味が覚えやすくなるかといったら、そうでもないんだよな~
という根本的なところに行きつくわけです。
パッと未知の英単語に遭遇した時に、
接頭辞と語根をたくさん覚えておいて、その場でいちいちパズルのように組み合わせながら単語の意味を推測する
というのは、面倒くさいし余計に難しいです。時間も無駄にかかってしまいます。
それなら、先に単純に頻出単語をコツコツ覚えた方が早い(と思うよ)。
このあたりの理由もあって、「語源から英単語を覚えるメソッド」ってイマイチ流行らなかったのではないかと思います。
(もちろん、ある程度実力のある人には有効なメソッドだとは思いますが。)
「英単語の語源図鑑」を買った方がいいか?
中上級者が使うのはOK
最後に、この「英単語の語源図鑑」、英語学習者にとってマストかと問われたらこう答えます。
教材としてではなく、読み物、補助教材としてならOK
あくまでも読み物、あとはそこそこ英単語を覚えている人の知識整理として役立つ、という本です。
読み物としては見やすくて、イラストもかわいいので楽しいことは楽しいのですが、教材としては補助教材程度に考えておけばいいので、
ガッツリ英語の勉強をする人はまずは
王道の単語集などで地道に勉強しましょう。
ある程度実力がついてくると、この本で紹介されている「接頭辞」や「語根」の頻出のものなんかは自然と身についてきますよ。
TOEICには役立つかどうか
正直、TOEICとはあまり関係のない本だとは思いますが、TOEIC学習者は真剣に英語を勉強している人が多いでしょうから、読んで損になることはないです。
ただ、直接的にTOEICに役立つかといわれると、あんまり関係ないかな、という印象です。
<追記>
「英単語の語源図鑑」、大ヒットし過ぎて続編が出ました。
題して
「続・英単語の語源図鑑」
正直言って、こちらの「続」の方が基本的な単語が多いので、両方買うなら「続」から買うことをおすすめします♪